香典袋(2)

沙耶ちゃんシリーズ。
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ4【友人・知人】

238 :まこと ◆T4X5erZs1g:2008/08/01(金) 22:34:35 id:lOTiqnxg0
沙耶ちゃんがそういう子だと知ってから、思い出して合点が行ったことがある。

俺がコンビニでバイトを始めたばかりの頃、いつも0時を回ってから来る女の客があった。
格好と化粧から想像するにキャバクラ嬢。買う物は弁当とビールを1本。
コンビニって弁当を渡すときに、一緒に箸を渡すだろ?
最初は俺も当然のように、キャバ嬢の袋に割り箸を入れた。
そうしたら彼女、わざわざ「家に帰って食べるから要りません」って断るわけ。
エコなキャバ嬢だったねw服の面積も最小限だったしwww

ある日、少し早い時間に彼女が現れた。レジにいたのは沙耶ちゃんだった。
俺は商品の棚に張り付きながら、沙耶ちゃんが箸を断られるだろう様子を観察していた。
沙耶ちゃんは箸を入れた。なぜか2膳。キャバ嬢は断らないんだ。そのまま店を出て行く。
俺はキャバ嬢の後を目で追った。彼女は駐車場の車の助手席に乗り込んだ。
「ああ、今日はデートかあ(笑)」
「そうらしいですね」
「箸2膳とは気を利かせたね」
「あの人がそうしてほしかったみたいなので」
そのときは、沙耶ちゃんの神経の細かさに感心しただけだった。でも、今考えると妙だったんだよな。
沙耶ちゃんは、『彼女が普段1人で来ること』も、『箸にこだわっていること』も知らなかったはずなんだから。


240 :まこと ◆T4X5erZs1g:2008/08/01(金) 22:36:15 id:lOTiqnxg0
長い余談で悪い。ここからが本題。
グランドでの一件があってから、
俺と沙耶ちゃん、それに事情を話した梶も含めて、俺たちはよく会話するようになった。
沙耶ちゃんが無口だったのは、見える自分と見えない俺たちとの、感覚の食い違いが怖かったからだ。

夜中のコンビニは、たまに緊急の用を足しに来るヤツがいる。香典袋と黒い靴下なんてその典型。
そういう客が来ると、俺たちは沙耶ちゃんに「亡くなったの誰だと思う?」って、霊感試しみたいなことをやった。
悪趣味だったなあw
沙耶ちゃんは笑って答えなかったけどね。

でも1回だけ「わからない」って、はっきり答えたことがあったんだよ。
30代中盤ぐらいの男だったかな。顔はもう忘れた。黒靴下と黒いネクタイを買って行った客。
レジで対応しているときから、沙耶ちゃんの様子はなんとなくおかしかった。
落ち着きがないっていうか、客と視線を合わせようとしない。俺から見たら普通の客だったんだが。
沙耶ちゃんの困惑した様子に、俺と梶は俄然興味を惹かれちまった。
梶が客をそっと追っかけて、俺は沙耶ちゃんと留守番。
「お葬式に行くのに、あんなに何にも感じてない人って初めて・・・」と沙耶ちゃん。


241 :まこと ◆T4X5erZs1g:2008/08/01(金) 22:38:22 id:lOTiqnxg0
梶は30分ぐらいして戻ってきた。
「やばいわ、あれ」
「何?変質的なん?」
「つか・・・香典泥棒じゃ・・・」
「マジ?なんで?」
「途中で靴下履き替えてネクタイして、その先で通夜やってた家に入ろうとした」
すでに出入りの絶えていた喪中の家は、玄関を開け放してあったらしい。
あの客は少しためらったあと、門をくぐって玄関先に立った。
「で、どうしたのよ?」
「もちろん臨戦態勢でしょwお客さん落し物ですよって声かけてやった」
「おまえ、すげーなw」
「ww飛び上がって驚いてたよ。そのまま逃がしちゃったけど」
「お手柄体育大生の称号を逃したなあ」
梶を持ち上げまくりながら、俺は沙耶ちゃんを横目で観察してた。
沙耶ちゃんは梶に憧憬のような視線を送りながら、話に聞き入ってた。
ちょっとだけムカついたねww
ただな・・・ああいう霊感の強い人間っていうのは、やっぱり何かで苦労してるんだな。
話が終わったあと、沙耶ちゃんが梶に言ったんだ。
「ありがとう。いつもはわかってもどうすることもできないから、こんなふうに役立ててくれて嬉しい」って。
見えりゃ気にするわな。沙耶ちゃんのせいじゃないんだけどさ。

後になって聞いた話だけど、霊感って、都合のいいときだけ出し入れできるものじゃないんだって。
沙耶ちゃんにとっては、霊体までひっくるめて『個人』だったみたいだ。
祖父さんが守護霊でついてる孫娘は、男っぽく見えるし、
軍人の家系は、本人がどんなに物腰が柔らかくても、高圧的に感じるらしい。
背後の霊に好かれたから、本人とはそれほど気が合わなくても、人間関係が上手く行くこともあったようだ。
そんなわけのわからない世界の中で、沙耶ちゃんが良識を保っていられたのは、
彼女の人格がものすごく高次元のものだったからだと、俺は思ってる。