10の14乗分の1(3)

729 :7/12:2009/07/13(月) 00:39:47 id:yzLus+8HO
どこをどう走ったらこんな事になるんだろう?
ヨッシーだって無傷でいられるはずがない。
「ヨッシー!おいヨッシー!お前?」
「あー、あー、あー」
ヨッシーは痴呆のように叫ぶだけで答えなかった。

暫くしてヨッシーは、仕事を辞めて精神科に通うようになったんだ。
日常生活は支障がないけれど、バイクには乗れなくなった。
俺はやはりあの日の事が関係しているような気がして、ババアの所に行って解決法を聞こうと思ったけれど、
できなかった。
約束を破った負い目があったから。
いつの間にかヨッシーの事は、仲間内でタブーになっていって疎遠になった。

そんなある日、不思議な噂を耳にした。
『四次元の木』の噂だ。
ある山奥にあるその木は、厳重にフェンスで仕切ってあり入れないようになっている。
管理しているS市に問い合わせたら、存在を否定される木。
この木はなんの変哲もない樹齢50年くらいの木らしいのだけど、なんと四次元の入り口になっているという。
空き缶や石を投げつけると消えるという。
消えた空き缶や石はどこにも見当たらない。
つまり…この世に存在しなくなる…。
元々は、山菜取りの老夫婦の旦那が奥さんの目の前で消えた!というのが噂の始まりだった。


732 :8/12:2009/07/13(月) 00:44:08 id:yzLus+8HO
噂が広がった後は大変で、珍走団は集まるし、子供が消えたとか騒ぎになるし、
でも四次元の木に行った事のある珍走団の友達に聞いた話では、何を投げつけても消える事は無かったって。
その友達は先週も行っていて、「フェンスを壊したから今なら入れる」って言っていて、
刺激を求めていた俺は、懲りずに行く事にしたんだ。

仲間を集めて出発しようとした時、
「僕もいくぞー、僕も、僕も僕も」
なんと、ヨッシー!
ヨッシーに教えたのは誰?
痴呆を連れていってもお荷物。
けれどヨッシーは俺のバイクに跨って離れない。
「嫌だ嫌だ、僕も、僕もへへへ」
ヨッシーには誰も連絡をしていないという。
どうして知ったのだろう?仕方なくニケツで連れて行く事にした。

珍走団の友達の言った通り、フェンスは壊れていた。四次元の木は直ぐに分かった。
しめ縄がしてあって酒が置かれていたから。
「なんの変哲もないな…」
そう言って、仲間の一人が木の枝を軽く投げた。
バシッ!
枝は虚しく地面に落ちた。
「なんだ嘘かよ…」
何故か、この行為を見たヨッシーの落ち着きがなくなった。
「ダメだよ、ダメだよ、怒られるよ。あのオジサンに怒られるよ」


734 :9/12:2009/07/13(月) 00:45:35 id:yzLus+8HO
ヨッシーは大声で暴れている。山奥とはいえ、夜の10時、警察が来ては面倒だ。
「ヨッシー、うるさいよ!静かにしろよ!もーなんでこんな身障連れてきたんだよ!くそ!」
俺は連れてきた事を後悔した。
ヨッシーを見ると騒ぐ一方で、苛立ちが増大してしまった。
みんなに悪いような気がして、冗談のつもりである提案をしてみた。
「ヨッシーを木に押し付けてしまおうか?うるさいから四次元に葬ってやろうか?」
軽い冗談だ。
けれど…
「おー!いいね!こんなお荷物は四次元に葬ってしまおう!」
「どうせ生きていても役に立たないよ葬ってしまおう!」
やんややんやの大騒ぎ。
ヨッシーコールまで起きてしまっている。
ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー
四次元なんて嘘なんだし、ヨッシーをビビらせておとなしくさせるだけだ。
俺もテンションが上がってしまって、ヨッシーの腕を掴んだ。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、オジサンがオジサンが…僕嫌だよ」
オジサン等と訳のわからんヨッシーに怒りさえ感じて、腕を力強く掴んだ。
反対の腕を友達が掴んだ。引きずるように木に向かって歩いていった。
ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー