10の14乗分の1(2)

726 :4/12:2009/07/13(月) 00:34:34 id:yzLus+8HO
「いいか、よく聞けよ。今から札書いてやる。
 それを持って、肝試しに行った8人全員で川に行って、ドクロと札を一緒に流せ!絶対後ろ向くなよ!
 分かったか?五千円置いてとっとと帰れ!」
ババアは、チラシの裏に変な梵字みたいなのを書いてよこした。
俺達は狐につままれたようにキョトンとしたまま五千円を置いて、一言も喋らないまま寺を出た。

「インチキだろ?」
「でも…ドクロとか8人とか…ズバリだったよね?」
結果として、ババアを信じる事にするしか無かった。
何がどうとんでもないのかもわからず、俺達は8人を集めて川に出かけるしか無かった。

ババアの所に行かなかった5人に経緯を説明した。
「いいか?絶対振り向くなよ?ヤバイらしいぞ。あと、みんな走るなよ!慌てて転んだら大変だから!」
そんな説明をしていると、一人だけ聞いてない奴がいる。
「ヨッシー!聞いてるのか?振り向いたら大変な事になるらしいぞ?大丈夫か?」
ヨッシーは返事をせず、ヘラヘラしていた。
「よし!じゃあ流すぞ?いいか?流したら直ぐに回れ右だぞ!振り向くなよ?走るなよ!」
俺はそう言って、ドクロの写真と梵字を書いたチラシを川に流したんだ。
みんなは同時に回れ右をして、ゆっくりとその場を後にした。

15歩位進んだところで、ヨッシーがバカをやりだした。
「俺は桜の木に登っても平気だったんだよ!呪いなんて怖くねぇ!へ!」
そう言って後ろを振り向いている。


727 :5/12:2009/07/13(月) 00:36:09 id:yzLus+8HO
「ヨッシーやめろ!ヤバイよ!やめろって!」
みんなが制止するのを無視して、ヨッシーが振り向いている。
「へ?あれ?あれなんだ?ぉぁ………………」
ヨッシーが黙り込んでしまった。
「ヨッシー!ヨッシー!どうしたヨッシー!」
みんなは歩みを止めない。ヨッシーは付いてこない。
「う、うわあー」
誰かが走りだした。つられて全員走りだした。
「うわあーああああー」

駐車場に着いたがヨッシーがいない。
「おい、ヨッシーは?ヨッシーどうしたんだよ」
陽が沈み始めて、辺りは暗くなりだしている。
誰も怖くてヨッシーを探しにいけない。
「俺、明日早いから…お先に…」

一人、また一人と消えていって、俺とカメラの持ち主だけになってしまった。
「どうする?探しに行くか?」
「正直…怖い…無理」
「あいつ…何を見たんだ?」
俺達は慎重に話し合い、あと30分待ってヨッシーが帰ってこない場合は帰る事にした。
約束を破ったヨッシーが悪いというのが大義名分で、
ババアの「振り向くと大変な事になる」という言葉が、どうしてもヨッシーを探す気分になれなかった。

30分してもヨッシーは帰ってこなかった。
俺達は仕方なく帰ったんだ。


728 :6/12:2009/07/13(月) 00:37:58 id:yzLus+8HO
翌日昼休み、職場からヨッシーの家に電話をした。
意外にもヨッシーは直ぐに出た。
「ヨッシー!昨日ごめん…大丈夫だったのか?」
「何が?」
「何が?って…昨日どうやって帰ったんだよ?」
「どうやって?バイクでだよ」
「いや、それはわかるけど」
まるで会話が噛み合わない。

仕方なく、仕事が終わってから、カメラの持ち主の奴と二人でヨッシーの家に行ってみた。
「ヨッシー、昨日あれからどうしたんだよ、心配したんだぞ?」
「俺さあぁぁ…へへっ…へへっ………」
「ヨッシー、お前なんかおかしいぞ?シンナー吸ってるのか?」
「へへへ」
「ヨッシー昨日何か見たんだな?何を見たんだ?ヨッシー?」
「僕なーんも見てない…見てないよ、見てないもん」(この日からヨッシーは池沼みたくなってしまった)
シンナーのせいかもしれないけれども、
自分の事を僕とか言い出したり、涎を垂らしたりしたりして、俺達を困らせた。

話にならないので、帰る事にして玄関を出ると、バイクが目にとまった。
来た時はシートが掛けてあったけど、風でシートがめくれていたからだ。
「これ…なんだよ?」
ヨッシーのバイクは傷だらけで、ライトと全てのウィンカーが割れていた。
所々に枯れ枝が付いていて、ミラーがあらぬ方向に折れ曲がっている。