ほっとけさん(1)

原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「匿名さん」 2010/03/02 22:13

今回は私が幼い時に遭遇した怖い体験を投稿させて頂きます。
長くなりますし、それほど怖くないかとも思います。それでも良いと言う方は是非読んで下さい。
かなり古い記憶ですので、多少の矛盾点や曖昧な表現があるかと思いますが、ご了承下さい。


これは私が小さい時に実際に起こった出来事です。
私の親は私が物心がつく前に離別し、私は母方に引き取られたのですが、
私の母の実家は結構な田舎で、女性が仕事を探すのは困難であった為に、私を祖父母に預け市内に働きに出ていました。
それでも祖父母は優しく、大自然に囲まれ楽しくやっていました。
しかしながら多少の不満も在りました。
と言いますのも、私の過ごした田舎というのが超がつくほどのド田舎だったのです。
当然ながら電車など通っておらず、路線バスも一日二本ほど、
村外に通じる唯一の道ですら大雨がふれば塞がれてしまい、陸の孤島と化す程のド田舎でした。
(古くは朝廷があった由緒あるド田舎です・・・)
そんな田舎に住んでて不便もありましたが、
そこは物心ついた頃から住んでいるためか、生活での不便はさほど気にはなりませんでしが・・・
人が少ない!!!!
同い年の男は私を含め4人しかおらず、
その上それぞれの家が別の集落でかなり離れていたので、学校以外で殆ど遊ぶことが出来ませんでした。
特に私の集落は子供が少なかったので、同年代がおらず寂しい思いもしておりました。
休みの日や日が長くなってくると、一人で裏山や近所の製材場、雑木林を探検して、
寂しく不満を抱きながらも元気に過ごしておりました。

そんなある日の事でした。私が小学校三年生の頃だったと記憶してます。
夕食時に食卓を囲んでいると、唐突に祖父が私に向かって言ったのです。
祖父「R(私)は兄ちゃんが欲しゅうないか?」
私「??そら欲しいけど・・・?」
祖父「ほうかー、実は日曜にY介がうちに来るんじゃがの、暫くうちで一緒に暮らすことになる思うんじゃ」
私「え?ほんとに!!なんでなんで?」
祖父「Y介のやつ病気ももっちょるやろ?
 せやから、空気の悪いところよりこっちの方がえーやろから、預かってくれへんかって前から頼まれとっての」
私「へー」
祖父「Rがええゆうんやったら、預かろう思うちょるけど・・・」
私「ええに決まってるやんか!!!!」
祖父「ほかほか、それなら来てもらうから仲良うせーよ」
私「わかっとるよ!やったあああ!!」
Y介は3つ上の親戚で、大きい法事や正月なんかに何度か遊んだことがあるんですが、
体が弱い割には行動派で、物知りでおもしろい頼れるお兄さんといった感じの人でした。
私は本当に兄が出来るかのように喜びはしゃいで、期待に胸を膨らませておりました。

そして週末に、Y介は両親と一緒にこの田舎までやって来ました。
私「Y介にーちゃん!」
Y介「R大きくなったなー、これから一緒だけど、おねしょはなおったか?(笑)」
私「いつの話だよ!それならY介にーちゃんかて、トマト食べれへんゆーてないとったやんか!」
Y介「お前あれはだな・・・」
・・・等とくだらない話をしながら、
子供特有のスキルと言うのでしょうか、暫く会ってなかった時間等は無かったかのようにすぐに打ち解けました。
それからは毎日がとても楽しかったのを良く覚えてます。
今までは一人だったのが二人になり楽しさは数倍に、
一人では行けなかった所へも行けるようになり、Y介といればなんでも出来ると何処かで思っていた気がします。

Y介が来て一か月ほどたった頃に、帰りのスクールバスに乗ってる時にY介が聞いてきました。
Y介「なR、あの大きい家に住んでるのは誰?有名人か?」
R「え?どれ?」
Y介が指したのは、隣の集落にある、恐らくは村で一番大きい御屋敷でした。
ただ誰が住んでるかなんて全く知りませんでしたが、前の席に座ってた高学年のその集落の子が口を挟んで来たのです。
「あーあの家さーオレん家が近所なんやけど、ちょっと変なんや」
Y介「変って?」
「しょっちゅう色んな大人が、なんかぎょーさんお土産もっていくのを見るんや」
Y介「それだけ偉い人が住んでるってことなんじゃないの?」
「でもな・・・今までその家から人が出てきたの見たことないんや・・」
R「へー、中は見たことないん?」
「いやー入ろうと思った事はあるんやけども、裏のおっちゃんが見ててめっちゃ怒られてん」
Y介「勝手に入ろうとしたのがばれたんだね」
「いや、それもやけど、ここに近づくなとか、一家全員が村におれなくなるんやとか、めっちゃ脅されたかんや」
Y介「何がいるんだろう??」
「さー妖怪とかかもな(笑)俺はもう怖いし、それから近づいてないからわからんけどな」
その後も色々とその家の不思議な話を披露して、その上級性はバスを降りて行きました。
Y介がこちらをみて、不敵な笑顔を浮かべて言いました。
Y介「次の探検場所は決まったな」

次の日曜日、私とY介は弁当を持って、朝から隣の集落へ向かいました。
隣の集落までは、自転車で林道を抜け15〜20分程度で着きました。
しかし、そこからが問題でした。
その御屋敷は小さい山の上にあり、山の麓一帯に大きい白壁が巡らされていたのです。
壁の切れ目に立派な門があったのですが、
その正面の畑で何人もの大人が農作業をしていたので、見つからずに進入するのは困難な様子でした。
どうするか悩みながら、私とY介は白壁に沿って自転車を押しながら歩いてました。
Y介「どうしようかなー正面からいっそ一気に走りこんでみるかな」
R「でも見つかりそうやし、見つかったらめっちゃ怒られそうだやんな・・・」
Y介「う〜〜ん・・・お!Rあれを見るのだ!!」
R「なになに?」
Y介が指差したのは、どこかの家のガレージでした。
Y介「あそこに梯子とかあるかもよ?」
R「えー泥棒するの?」
Y介「ちょっと借りるだけだし大丈夫だよ」
そう言って、Y介は私を引っ張りガレージに忍び込み、脚立を発見しました。
Y介「これで壁を越えて、あの謎の家に突撃するのだ!」
R「オー!!」
なんだかんだ私はY介に乗せられて、一緒になって脚立を拝借しちゃいました。

壁に脚立を架けて、まずはY介が登りました。
Y介「誰も来てないか?」
私「大丈夫ー!何かある?」
Y介「いやー木ばっかだなあ(笑)Rも早く来いよ」
周囲を気にしながら脚立を登っている最中はかなり緊張してましたが、
壁の向こう側に降り立ってからは緊張はほどなく治まりました。
壁の向こうは木々が鬱蒼と茂り、少々不気味な森でした。
しかし、日ごろからド田舎の各所を探検していた私達にとっては特別に畏怖するものでもなく、
軽い足取りで傾斜を登って行きました。

どれほど登ったでしょうか、木々の隙間からようやく例の御屋敷が見えてきました。
御屋敷に近づくと森が切れ、パッと日の光が差し込み一気に明るくなったのですが、
その御屋敷の異様な姿に一瞬息を飲みました・・・
御屋敷は周りに塀があったのですが、山の麓にあったものに比べると乗り越えるのは容易であろう高さでしたが、
その壁の向こう側にある御屋敷が、余りにも凶凶しく異彩を放っていたのです。
屋敷は塀も含め全て黒一色でした。おまけに窓が一切ありません・・・
その家としてあるまじき異様に飲み込まれ、私は暫し佇んでおりました。
そんな私を尻目に、Y介は塀に手を掛けて一言、「行くよ」。
R「え?入るん?」
Y介「当たり前だろ。ここまで何しに来たんだよ、それでも探検隊か!?」
R「わかったよ・・・」
私とY介は塀を越え、中庭らしき所に侵入しました。
塀を越えてみると、そこは塀の向こうからは想像もつかない光景が広がっていました。
たくさんの艶やかな草花に彩られていたのです。
見たこともない花がたくさんあり、まるで建物の黒一色が嘘かのような素晴らしい庭園でした。
しかし、それにより一層御屋敷の不気味さが際立ちました・・・
少し花に見とれた後に、Y介は壁伝いに屋敷と壁の間に向かって歩いて行きました。
私「どこ行くん?」
Y介「流石に玄関から入ったらすぐばれるだろう?窓もないし、裏口探してみよう」
R「待ってよ」

どんどん進むY介の後ろを恐る恐るついて行くと、勝手口のような扉を発見しました。
穏やかな陽気と薫風がそよぐ中とは裏腹に、私たち二人の緊張はピークに達していたと思います。
Y介「行くぞ・・・」
黙って頷く私。
そっとY介が扉を開きました・・・
中に入っていくY介。
後を追って私もその扉の敷居をまたぎ中に入ると、外とは一転して真っ暗な屋内でした。
Y介「お邪魔しますよー・・・」
小声で言って上がり、かまちを登り、Y介は土足のまま中に入って行きました。
慌てて私も後を追っかけ上がり、かまちを登った瞬間でした、急に空気が重くなる感じがしました。
陰鬱な空気が漂い、どこからともなく例え難い臭いが流れてきています。
勝手口から差し込む光を頼りに私たちは歩みを進め、襖を一つ開きました・・・
バタン!!
私・Y介「!?」
急に扉が閉まりました!
私「風やんな・・?」
Y介「・・・俺、閉まらないように石を挟んであったんだよ」
R「じゃあ、なんで!?」
私は泣きそうになりながら叫びました。表情は分かりませんでしたが、Y介も泣きそうになっていたでしょう。
その時、
ギシ、ギシ、ギシ
何かが歩いてこちらに近づいてくる音が聞こえてきます・・・


原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「匿名さん」 2010/03/04 00:17

澱んだ空気が更に重く私とY介に圧し掛かってきました。
Y介との距離は1Mも無かったと思います。
一歩踏み出せば届くような距離なのに私は何もできず、ただただ全身が強張るばかりでした。
一方、Y介も襖を半開きにした状態で手を掛けたまま、微動だに致しませんでした。
しかし、その音は無情にもどんどんこちらに近づいてきます。
ギシッ、ギシッ、ギシッ・・・・・
壁一枚向こう側にいて見えないその物体が、何故かどこまで進んでるか手に取るように脳裏に伝わって来ます。
そして、常闇の中を一歩ずつ進んできたその物体が、襖の隙間から貌を覗かせました・・・
!!!!!!!!!!
恐怖で声一つあげれず、静寂の中ソレは立ち尽くしていました・・・
Y介との距離は数十cmも無かったでしょう。Y介越しに見えるソレは間違いなく男でした。
暗闇に溶け込むかのような黒い着流しを着ていたのが、鮮明に焼き付いています。
男の髪は胸まで垂れ流されており、全身が暗闇と同化していましたが、
前髪の隙間から異様にギラついた眼で、こちらを睨みつけているのが分かりました。
私はなにも考えれず、何もできず、ただただ震える事しかできませんでした。
そんな刹那にY介が叫びました!
Y介「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
無音をつんざきY介のけたたましい叫び声が響き渡りました!
その刹那、Y介は黒い男に体当たりをしたのです!!!
男は若干後ずさりをし、Y介はすぐさま踵を反し、
「逃げるぞ!!!」と上ずった声で叫びつつ私の手をとり、入って来た扉に向かって走り出しました。
扉は苦もなく開き、そのまま私とY介は飛ぶように走り、その場を逃げ去りました。

屋敷の横を抜け、庭園を駆け抜け、玄関をくぐり抜け、
壁を越えて行くような余裕もなく、最初に敬遠した正面側に向かって走りました。
延々と続く石段を転びそうになりながらも駆け下りて、気がつけば真正面の田んぼ泥の中に飛び込んでおりました。
幸いなのかはわかりませんが、その時はすでに農作業をしていた大人はおらず、
私とY介は急いでその場を離れ、息を切らしながらお互いの顔を見合せていました。
Y介「凄く怖かったな。オレ食われちゃうかと思ったよ」
私「でもかっこよかったわー!めっちゃ強いやん!!」
Y介「隊長だからね!(笑)Rみたいに漏らしたりしないさ」
私「漏らしてないわ!・・ちょっと危なかったけど」
Y介「泥だらけやから分からないと思って・・・本当のこと言ってみ?」
私「ホンマに漏らしてへんって!!・・・でもあれなんやったんやろ・・・」
Y介「んー、あれは多分妖怪だな!多分・・・」

この後ずっと、Y介と私の他愛もない妄想話が膨らんでいきます。
しかし、得てして現実は妄想よりも残酷で恐ろしいものだと知るのは、もう少し後のことでした。





ほっとけさん(2)に続く




さんけい みにちゅあーと プチ 田舎家 MP01-29

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