G県厨(22)

扉を己の背にし、ドアチェーンを掛けながら私を睨みつけるG県厨母。
な、なんで?どうして?
私はそんな疑問を思い浮かべるよりも先に、咄嗟に風呂場(ユニットバス、ちょっと頑丈な扉)に逃げ込みました。
鍵を内側から閉めると、扉が軋まんばかりの激しい衝撃、
「どうして家のG県厨ちゃんが、パトカーで連れて行かれるの!説明しなさい!」
私はなにがなんだかわかりませんでした。どうして彼女がここにいるのか。
どうして私はこんな所に逃げ込んだのか。もう、パニックです。扉がガンガン叩かれます。
私は自分の頬を想いきり叩くと、ゆっくり深呼吸しながら数字を数えました。
すぐに扉が壊される事は無い!そう思い必死に自分を落ちつかせます。
100%落ちつく事は出来ませんでしたが、
自分の置かれている状態を把握するくらいの落ちつきを取り戻す事は出来ました。
G県厨母がここにいる理由はわからないが、確かに居る。
部屋の鍵は閉められ、ドアチェーンが掛けられた。目の前の扉を挟んでG県厨母と二人きり。
扉の外にはお巡りさん。そしてG県厨母の叫びから、どうやらG県厨がパトカーで連行される時をたまたま目撃した模様。
そして部屋の中には凶器になるものが多数存在している。
これが私に与えられた情報のすべてでした。
扉は鉄扉ではないので長くは持ちそうにないのですが相手は普通の女性なので、
18歳真性厨父に比べれば幾分持つと思われました。

外ではお巡りさんが必死に呼びかけているのが聞こえてきます。
私は扉を押さえつつ、自分の居るバスルームを見渡しました。
何か役に立ちそうなものは無いか・・助かる術はないか・・・・
バスルームに窓は一切無い。換気扇が一つ。バス用品が幾つか。
武器になりそうなものはヘアースプレーとトイレ洗浄用の柄のついたブラシ。
ヘアースプレーはライターでもあれば武器になりますが(危険です。良い子の皆様は決して真似をしないで下さい)
ライターがありません。
それでも希望を捨てずにポケットをあさると指先に何か硬いものが触れます・・・
家の鍵と車の鍵をくっつけているキーホルダ―でした。
扉は相変わらず軋みます。破壊は時間の問題です。
私は意を決して扉から離れると、換気扇に近付き、お巡りさんを呼びました。
「お巡りさん、聞こえますか!」
その私の声に答える天の助けの声が・・・
「Aさん、御無事ですか!大丈夫ですか?応援呼びましたから、もう少し頑張って!」
お巡りさんが無事で外に居てくれる。これが唯一の救いでした。
私は換気扇越しにお巡りさんに今の状態を説明。慌てる私の言葉を、
お巡りさんは必死に理解しながら落ちつくように声を掛けてくれます。
どうにか私の現在の状況をわかってもらうと、車のキーを使い、換気扇に掛かっているカバーのネジを開け始めました。
震える手で上手くいきませんが、なんとかカバーを外す事が出来ました。
私は換気の外カバーを無理矢理開くと、そこからキーホルダーごと外に落としました。
「家の鍵です。」
お巡りさんは確かに受け取ったと返事をくれました。
今まで幾多の襲撃を防いでくれた鉄扉でも、開いてしまえば後はドアチェーン、これならなんとかなるかも・・・

微かな希望が見えてきました。ですが、扉への襲撃は激しさを増します。
既にG県厨母の言葉はヒステリーを通り越して、猿の惑星に突入しています。
理解は出来ませんが、恐ろしさはMAXです。武器はトイレブラシのみ。
一回の攻撃を防げるかどうか怪しいものです。その時、私は最大の武器に気が付きました。
しかし、それは母厨と直接向き合う諸刃の武器、いちかばちかの賭けです。
扉も既に限界の状態でした。
(蹴っていた足もとの外側が割れたらしく、内側が直接波打っているのが見えるんです)
どっちにしろ、これ以上は持たない。
そう思った私は最後の覚悟を決めました。出来れば決めたくなかったけど。
母親厨がずっと扉を叩き続けているという事は、武器は持っていないと私は解釈しました。
持っていたらそこで終わりです。でも、扉が破かれれば、これ又おしまいです。
私は意を決して扉に手を掛けました。
そしてドアノブを押さえながら鍵を外すと、一気に扉を勢い良く押し開きました。
母親厨はいきなり開いた扉を避けるように、一歩後ずさりをしました。かわされてしまいました。
母親はやっと出てきた私に笑みを浮かべました。
恐かった・・・鬼のような形相で、笑うんです。本当に目が光ってる様に感じました。
背筋が寒かった・・・金縛りってこんなななの?という状態です。
私は自己中心的かも知れませんが、自分が可愛いです。母親厨に何かされるのはごめんです。
ですが、そんな私に母親厨は飛びかかってきました。私は最大の武器を使用しました。
最大の武器、それは自分の体です。母親厨は普通の体型、相対する私は何度も言ってますがコニーです。
私は既に手加減と言う言葉を忘れ、飛びかかって来た母親厨に力一杯体当たりをしました。
母親厨は本当に飛びました。そのまま床に転ぶように落ちました。
私はそのまま母親厨を飛び越えると、玄関まで走りました。
するとそこには扉を開いてドアチェーンに悪戦苦闘しているお巡りさんが見えます。私は無我霧中で叫びました。
「どいて!扉閉めて!」
その私の剣幕に押されたのか、お巡りさんは扉をすぐに閉めました。
私は扉のドアチェーンを開けると、扉を開きました。ですが、そこまででした。
起きあがった母親厨が私に飛びかかったのです。しかし、既に遅かった・・・
自由になった扉は開かれ、お巡りさんが飛び込んできました。
そして私を殴っている母親厨を取り押さえると、私は解放されたのでした。
放心している私と暴れる母親厨を押さえるお巡りさん。数分後、再び応援のお巡りさんが登場。
しかし、G県厨本人とは違い、母親厨は、警察署の方に連行されていきました。
放心しきっていた私は、どうして良いかわからなかったのですが、そんな私にお巡りさんの一言が・・
「なんか焼いてるの?焦げ臭いけど大丈夫?止めた方が良い?」
その言葉に我に帰った私は慌ててオーブンに駆け寄ると、そこには焼けすぎて黒くなった物体が出来あがっていました。
なんとか落ちつきを取り戻した私は、お巡りさんに連れられて警察署へ。
そこで事情聴取を受けました。その時母親厨に、怪我は無いと聞きました。
ちょっと一安心。これで怪我でもさせていよう物なら・・・考えたくない(泣)
そのままその足で交番へ行くと、泣きつづけるG県厨がおでむかえ。
そして私を見るなりG県厨が叫びます。
「Aさん酷い!私を騙して!傷付けた!もう立ち直れない!
 あんだのせいだ!私、もうぼろぼろ!最低!志んじゃえーーー!!」
私の方がぼろぼろだよ。叫びたかったです。
結局G県厨は父親が迎えに来て引き取られていく事になりました。